膀胱がん
BLADDER CANCER
はじめに
膀胱とは腎臓で作られた尿を貯めておく袋のようなものです。一定量の尿が貯まると尿意を もよおすようになっており、体外へ排出されます。膀胱は平滑筋と呼ばれる筋肉でできた袋状の臓器で、尿が溜まってくると膀胱の平滑筋が緩み、袋が膨張し、膀胱に尿が溜まったという信号が末梢神経から脊髄、大脳と伝わり、おしっこがしたくなります。膀胱に尿をためる量は平均で400 mLためられるとされています。
膀胱がんは、2013年の日本がん統計では、10万人当たり男性23.2人、女性7.1人が罹患しており、男性に多く、泌尿器系がんの中で前立腺がんに次いで2番目に多いがんです。年次推移の統計では、死亡者総数は年々増加しているものの、これを年齢で補正した死亡率で横ばいであり、死亡者の増加は社会の高齢化によるものと考えられます。
膀胱がんの原因として、喫煙が最も重要で、現在喫煙している人は吸わない人に比べ4倍、過去に喫煙した人は2.3倍膀胱がんになりやすいことが分かっています。タバコの煙の発がん物質が、全身を回った後、濃縮されて尿中に排泄され、膀胱の粘膜が慢性的に発がん物質を接触してがんが発生すると考えられています。現在の膀胱がんの患者の約半数は、喫煙が原因であるという統計結果もあり、禁煙が膀胱がんの予防に最も大切です。
症状
肉眼的血尿
初発症状で最も多いのが無症状の肉眼的血尿です。何の前ぶれもなく「突然血尿」が出現します。その後数日で自然に血尿は消失しますが、再び血尿が出現します。それを繰り返していくうちに血液の塊により尿道を閉塞して尿を出そうと思っても出なくなることがあります。 その他には頻尿(頻回にトイレに行く)や排尿時の痛みなどが見られることもあります。
検査・診断
1)腹部超音波検査(腹部エコー検査)
血尿の原因としては膀胱がん以外にも尿路結石や炎症性疾患などが挙げられます。まず、最初に腹部超音波検査で大まかな疾患の鑑別を行います。患者さんへの負担もなく簡便に行えます。
2)尿細胞診検査
尿の中には尿路上皮などの剥がれた細胞が含まれています。その細胞の変化を観察することにより、がんや炎症性疾患を検査することができます。採尿のみで検査が行えるため、患者さんへの負担はありません。結果はClassⅠ~Ⅴの5段階で評価します。ClassⅠ,Ⅱは陰性、ClassⅢは疑陽性、ClassⅣ,Ⅴは悪性(がん)が強く疑われます。
3)膀胱鏡検査
最も大事な検査は膀胱鏡検査です。尿道から細い内視鏡を挿入して膀胱の中を直接観察します。がんの有無や場所・形態・サイズを観察します。
4)CT、MRI検査
膀胱鏡検査や尿細胞診検査などで膀胱がんの可能性が高いと判断した場合にがんの広がりや転移の有無を確認します。
病期(TNM分類)*第8版
治療
1. 表在性膀胱がん(筋層非浸潤性膀胱がん)の治療
1)経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)
一般的に診断と治療をかねて行います。表在がんの場合にはこの手術が治療となります。通常、腰椎麻酔を行って尿道から内視鏡を挿入して電気メスでがんを切除して取り除きます。手術時間は1時間から1時間半程度です。また、最終的に切除したがん組織を顕微鏡で観察します。筋層への浸潤の有無や悪性度を評価し、この結果より追加治療の必要性を検討します。
2)膀胱内薬剤注入療法
表在がんが多数ある場合や上皮内がん(T分類のTis)などに抗がん剤(ピラルビシン)やBCGを膀胱内に注入して治療します。外来で週に1~2回行います。またTURBT後に再発予防目的で行うこともあります。
2. 筋層浸潤性膀胱がんの治療
1)膀胱全摘除術+尿路変向術
筋層浸潤がんの場合はTURBTでのがんの切除が不十分なために膀胱全摘除術の適応となります。全身麻酔下に男性では骨盤内にある膀胱と前立腺・精嚢を摘出します。女性では子宮を同時に摘出する場合もあります。この手術では膀胱を摘出するために尿を溜める袋を作る(「尿路変向術」と呼びます)必要があります。 尿路変向術は主に2つの方法で行っています。また治療効果を上げるために膀胱全摘除術の前後に補助化学療法として行う場合もあります。
回腸導管造設術 | 小腸の一部(回腸)を利用して回腸を皮膚から直接出します。これをストーマと呼び袋をつけて尿を溜めます。 現在も最も多く行われている方法です。 |
新膀胱造設術 (自排尿型代用膀胱) | 回腸の一部を使って袋(代用膀胱)を作成し固有の尿道に吻合します。この方法は代用膀胱に尿を溜めて自分の尿道から排尿することが出来るためストーマを造設する必要がありません。ただし、通常の膀胱と異なるため、時間排尿や自己導尿などの排尿には十分な管理が必要です。また、腫瘍の発生部位により手術適応しない場合もあります。 |
2)放射線療法
膀胱がんは、放射線療法に比較的感受性があり、膀胱全摘除術の補助的治療や全摘除術が困難な症例に対して行います。また放射線療法は化学療法と併用して行われることもあります。化学療法と併用するとさらに治療効果が高くなるといわれています。副作用として皮膚のただれ、膀胱の萎縮、直腸からの出血などが生じることがあります。しかし最近では機械の進歩に伴って副作用は随分と減っています。
3. 転移性、再発性膀胱がん
1)化学療法(抗がん剤療法)
転移がある症例や摘出困難な浸潤がんは化学療法が行われます。また膀胱全摘除術の前後に補助療法として行う場合もあります。いずれも抗がん剤を複数使用して行います。主にGC療法(ゲムシタビン、シスプラチン)やDD-MVAC療法(メソトレキセート、シスプラチン、アドリアマイシン、ビンブラスチン)という多剤併用の抗がん剤を使用した方法を行っています。主な副作用としては、吐き気、食欲低下、白血球減少、腎機能障害などが起こり得ます。また、腎機能障害がある場合はシスプラチンの使用ができませんので、代替薬剤としてカルボプラチンを用いて治療を行います。
2)がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤療法)
2018年より一次化学療法に対して効果無効となった症例に対して新規に免疫チェックポイント阻害剤(ペンブロリズマブ)が保険適応となり使用可能となりました。また、2021年より一次化学療法後の維持療法としてアベルマブの使用が可能となり、2022年より術後補助療法としてニボルマブの使用も可能となりました。免疫チェックポイント阻害剤は、がんの免疫抑制機能を阻害し免疫を再活性化させることで従来の抗がん剤による治療効果が得られにくい患者に対しても高い治療効果を示すと言われています。
治療実績
1. 当院における膀胱がんに対する手術件数の年次推移
2. 当院における尿路上皮がんに対する初回薬物療法導入件数の年次推移
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