密封小線源永久挿入療法
INSERT THERAPY
密封小線源療法について
はじめに
密封小線源療法とは、前立腺癌に対する治療のひとつで、放射線(γ線、X線)を放出する小線源(チタン製カプセルに密封された放射線同位元素ヨウ素125)を前立腺内に永久留置を行い、内側から放射線をがん組織に直接照射する治療法です。
日本では、2003年7月に認可され、当院でも2007年3月から開始しております。
密封小線源療法は、手術や外照射法(外部から放射線を照射する方法)と比べて合併症が比較的少ないとされています。
また、入院期間が3泊4日と短く済むなどの利点が挙げられます。
一般的に、治療成績は前立腺全摘術や放射線外照射と同等もしくはそれ以上の治療効果を期待できると報告されています。
当科では、積極的に密封小線源療法に取り組んでおり、年間約80人の前立腺癌患者さんに対して密封小線源療法を行っております。県内外の多くの施設より御紹介頂き、経験症例数は日本でもトップクラスで、日々多くの患者さんの治療に携わっています。
当院の治療成績
限局性前立腺癌に対する治療成績は、一般的に手術と密封小線源療法は同等と報告されています。当科での密封小線源療法の治療成績も5年間の生化学的非再発生存率(5年間で腫瘍マーカー:PSAに基づいた基準で再発がない割合)は、低リスクで98.3%、中リスクで95.8%、高リスクで100%です。また、5年間の前立腺癌の癌特異的生存率(5年間で前立腺癌による死亡がない割合)は、全てのリスクで100%であり、前立腺癌による死亡例は1例もありませんでした。
当院では、リスク分類に沿った治療を行うことにより国内外の有名施設と比較しても遜色ない、極めて良好な治療成績が得られています。
【5年間の生化学的非再発生存率】
【5年間の前立腺癌癌特異的生存率】
参考文献:Nakiri.M et al 2022 Journal of Contemporary Brachytherapy
NCCNガイドラインに基づく | 治療 | |
低リスク | PSA<10ng/ml and GS:6 and ≦cT2a | 密封小線源療法単独 |
中リスク | PSA10-20ng/ml, GS:7,T2bいずれか1つに当てはまる場合 | 密封小線源療法単独 |
PSA10-20ng/ml or GS:7 or cT2b | 密封小線源療法 +外照射療法(週5回:平日毎日を4−5週) | |
高リスク | PSA>20ng/ml or GS:8 or≧cT2c | 密封小線源療法 +外照射療法(週5回:平日毎日を4−5週) +ホルモン療法(治療前後9-24ヶ月) |
*治療待機期間がある場合や前立腺の体積が大きい場合に治療前に内分泌療法(男性ホルモンを抑制する薬剤)を行うことがあります。
<補足>
NCCN(National Comprehensive Cancer network):全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン 策定組織
PSA:前立腺がんの腫瘍マーカー
GS(グリーソンスコア):がんの悪性度を示す指標
cT:原発腫瘍病期(がんの広がり)
治療の流れ
他施設より当院で治療をご希望される患者様にはご紹介施設より資料を持参して頂きます。
資料:紹介状(診療情報提供書)、各種血液・画像検査データ
前立腺生検の病理標本(プレパラート)
前立腺生検の病理標本は、当院で再度評価を行い、治療方針の指標に致します。
治療基準を満たした場合は下記の流れで治療計画を立てます。
✔術前治療計画(プレプラン)
治療2~4週間前に来院頂き、治療室で経直腸的超音波検査を用いて前立腺の体積・形をチェックし、治療に必要な線源数を決定します。
治療に用いる線源は、治療日に最適な状態で用いることができるよう米国より輸入されます。そのため、患者様の事情で治療ができなくなった際は、線源を使用することができなくなりますので、ご注意ください。
✔入院:3泊4日
治療前日(火曜日)に入院となります。
治療日(水曜日)に治療室にて腰椎麻酔下で行います。経直腸的超音波検査、透視を用いて前立腺内に線源をおよそ40~100本程度留置いたします。治療に要する時間は、麻酔、準備を含めて2時間程度になります。治療後は、翌日の朝までベッド上で安静にして頂きます。
治療翌日(木曜日)にCT検査を行い、線源の確認を行った後で尿道カテーテルを抜去します。問題なければ治療2日後(金曜日)に退院となります。
治療の合併症について
✔急性期の合併症(治療後1年以内)
頻度の高い主な合併症として排尿障害(頻尿、尿意切迫感、排尿困難感など)があります。一時的な尿閉が起こることもありますが、カテーテル留置が必要になることは5%程度とされています。治療後に数週間持続することがありますが、自然に軽快することがほとんどです。当科では、カテーテル留置を要するような有害事象発生も0.3%と非常に少ないことも特徴です。
参考文献:Nakiri.M et al 2022 Journal of Contemporary Brachytherapy
✔晩期合併症(治療後1年以降)
治療後1年以上経過して出現することがあり、直腸出血や潰瘍が挙げられますが、処置が必要になるものはまれです。尿失禁や男性機能に関しても他治療に比べて有意に少ないと報告されています。
*当科では、2019年8月に全国より先駆けて、前立腺と直腸の間にハイドロゲルを挿入するSpace OAR挿入術を取り入れています。このことにより放射線治療後の直腸障害が少なくなることが期待されます。挿入されたハイドロゲルは放射線の影響が少なくなる時期に吸収され、尿として排泄されます(約6ヶ月間で消失)。
放射線の影響について
線源から放出される放射線は術後約2ヶ月で半減し、1年後にはほぼ0になります。
線源からの放射線は、ほとんどが前立腺内で吸収され、体外へ放出されるものはごく微量です。そのため、周囲の方が受ける影響は、非常に低いものです。周囲の方への影響の程度は、例えばこの治療を受けた方とご家族が1m離れて1回1時間の食事を1日3回1年間毎日繰り返した場合、胸部X線写真を1枚撮影する場合に受ける放射線の影響と同程度です。また、線源はチタン製で安全性が高く、空港などの金属探知機には反応しません。MRI検査も可能です。
さいごに
現在、当治療については、県内外より多くの御紹介を頂いているため、入院までお待ち頂く場合もありますが、可能な限り早急に対応できるよう努めていきます。また、入院待機期間の長期化が想定される場合には、患者さんのご希望に応じて病状進行抑制を目的とした内分泌療法を検討させて頂きます。
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