人と地球にやさしい 生命を慈しむ医療を目指します。

当科では広く泌尿器科疾患の診療を行っていますが、中でも悪性腫瘍(腎がん・膀胱がん・前立腺がんなど)の患者さんを多く診せていただいております。これらの泌尿器がんは高齢化社会の影響で近年顕著に増加してきました。特に前立腺がんはPSA(前立腺がんの腫瘍マーカー)の普及により、早期前立腺がんの発見が可能となり、多くの治療法が選択できるようになりました。 当科では早期前立腺癌がんの治療として主として手術を行っておりますが、放射線科と協力し密封小線源療法・放射線外照射も多数実施しており、さらには重粒子線治療施設とも連携をとりながら患者さんの納得できる治療法選択を行っています。

また進行・再燃前立腺がんの治療として新規薬剤を含む各種ホルモン療法やワクチン療法は優れた治療成績をおさめています。このワクチン療法は前立腺がんだけではなく、既存の治療法が効きにくくなった進行した膀胱がん症例にも効果を示すことがわかってきました。泌尿器疾患に対する腹腔鏡手術も早期より導入しており、腎腫瘍・副腎腫瘍・前立腺がんを中心に最近では尿膜管疾患などの良性疾患にも適応を広げています。尿路結石に対してはESWL(体外衝撃波結石破砕術)・TUL(経尿道的砕石術)などを積極的に行っており、ESWLは患者さんのニーズに応え、外来治療も多く行っております。また前立腺肥大症の治療としてレーザーを使用したHoLEP(経尿道的前立腺レーザー核出術)を多数行っており、低侵襲な治療法として確立しております。このように当科では幅広い疾患領域に対して低侵襲で安全かつ効果の高い治療の実践に取り組んでいます。

ダヴィンチXiによる泌尿器がん手術

2016年6月久留米大学病院にロボット支援手術の最新機種ダヴィンチXiが導入され、前立腺がんに対する手術を開始致しました。

早期の前立腺がんに対しては様々な治療法がありますが、最も効果の高い治療法の1つに手術治療が挙げられます。この前立腺全摘除術は最初開腹手術に始まり、その後技術の進歩により2000年代はじめ頃から腹部に数か所の穴をあけて内視鏡を挿入し、前立腺を摘出する腹腔鏡手術へと進歩してきました。これにより術後の痛みが軽減し、回復も早くなりましたが、術後合併症である尿漏れや勃起障害なども減少はしたものの、依然一定の割合で認められます。

そして2009年頃からわが国でも登場してきたのがロボット支援手術です。基本的な手術手順は従来の腹腔鏡手術と同様ですが、大きな違いは内視鏡や鉗子、メスなどの手術器具を術者がロボットアームを遠隔操作して動かす点にあります。このロボット手術の利点は、①拡大した良好な3D(立体視)視野での操作②手振れが無く、人間の手以上に細かい動きが可能といったことなどが挙げられます。これにより、これまでの腹腔鏡手術以上に細かく正確な手技が可能になります。すなわち術中・術後合併症の軽減、患者さんのQOLの改善など治療成績の向上が期待できます。 ロボット支援下前立腺全摘術は2012年の保険収載以降、日本国内で急速に普及しており、また2016年4月からは比較的小さな腎がんに対するロボット支援腎部分切除術も保険収載されました。泌尿器科のみならず今後多くの外科手術はロボット支援手術で行われる時代へ入っていくことが予想されます。この度久留米大学病院に導入された最新機種であるダヴィンチXiは従来の機種と比較して種々の新しい機能が加わっており、様々ながんに対して柔軟に対応することが可能です。がん診療はわが国における医療で最も重要な領域の1つであり、筑後地区におけるがんの外科治療に今回のダヴィンチXi導入が大きく貢献できることが期待されます。

実際の手術風景

術者は手術室内の離れた位置に設置した操縦席(コンソール)でロボットアームの操作をします。

患者さんに設置されたダヴィンチ本体(ペイシャントカート)と周辺の機器。患者さんのそばには手術助手2名がつき、ロボット操作の補助をします。

密封小線源永久挿入療法

INSERT THERAPY

密封小線源療法について

はじめに

密封小線源療法とは、前立腺癌に対する治療のひとつで、放射線(γ線、X線)を放出する小線源(チタン製カプセルに密封された放射線同位元素ヨウ素125)を前立腺内に永久留置を行い、内側から放射線をがん組織に直接照射する治療法です。
日本では、2003年7月に認可され、当院でも2007年3月から開始しております。

密封小線源療法は、手術や外照射法(外部から放射線を照射する方法)と比べて合併症が比較的少ないとされています。
また、入院期間が3泊4日と短く済むなどの利点が挙げられます。

一般的に、治療成績は前立腺全摘術や放射線外照射と同等もしくはそれ以上の治療効果を期待できると報告されています。

当科では、積極的に密封小線源療法に取り組んでおり、年間約80人の前立腺癌患者さんに対して密封小線源療法を行っております。県内外の多くの施設より御紹介頂き、経験症例数は日本でもトップクラスで、日々多くの患者さんの治療に携わっています。

当院の治療成績

限局性前立腺癌に対する治療成績は、一般的に手術と密封小線源療法は同等と報告されています。当科での密封小線源療法の治療成績も5年間の生化学的非再発生存率(5年間で腫瘍マーカー:PSAに基づいた基準で再発がない割合)は、低リスクで98.3%、中リスクで95.8%、高リスクで100%です。また、5年間の前立腺癌の癌特異的生存率(5年間で前立腺癌による死亡がない割合)は、全てのリスクで100%であり、前立腺癌による死亡例は1例もありませんでした。
当院では、リスク分類に沿った治療を行うことにより国内外の有名施設と比較しても遜色ない、極めて良好な治療成績が得られています。

【5年間の生化学的非再発生存率】

低リスク:98.3%
中リスク:95.8%
高リスク:100%

【5年間の前立腺癌癌特異的生存率】

低リスク:100%
中リスク:100%
高リスク:100%

参考文献:Nakiri.M et al 2022 Journal of Contemporary Brachytherapy

NCCNガイドラインに基づく治療
低リスクPSA<10ng/ml and GS:6 and ≦cT2a密封小線源療法単独
中リスクPSA10-20ng/ml, GS:7,T2bいずれか1つに当てはまる場合密封小線源療法単独
PSA10-20ng/ml or GS:7 or cT2b密封小線源療法
+外照射療法(週5回:平日毎日を4−5週)
高リスクPSA>20ng/ml or GS:8 or≧cT2c密封小線源療法
+外照射療法(週5回:平日毎日を4−5週)
+ホルモン療法(治療前後9-24ヶ月)
※外照射療法は入院or外来通院いずれも可能(治療時間1回:15−30分程度)

*治療待機期間がある場合や前立腺の体積が大きい場合に治療前に内分泌療法(男性ホルモンを抑制する薬剤)を行うことがあります。

<補足>
NCCN(National Comprehensive Cancer network):全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン 策定組織
PSA:前立腺がんの腫瘍マーカー
GS(グリーソンスコア):がんの悪性度を示す指標
cT:原発腫瘍病期(がんの広がり)

治療の流れ

他施設より当院で治療をご希望される患者様にはご紹介施設より資料を持参して頂きます。
資料:紹介状(診療情報提供書)、各種血液・画像検査データ
前立腺生検の病理標本(プレパラート)
前立腺生検の病理標本は、当院で再度評価を行い、治療方針の指標に致します。

治療基準を満たした場合は下記の流れで治療計画を立てます。

✔術前治療計画(プレプラン)

治療2~4週間前に来院頂き、治療室で経直腸的超音波検査を用いて前立腺の体積・形をチェックし、治療に必要な線源数を決定します。
治療に用いる線源は、治療日に最適な状態で用いることができるよう米国より輸入されます。そのため、患者様の事情で治療ができなくなった際は、線源を使用することができなくなりますので、ご注意ください。

✔入院:3泊4日

治療前日(火曜日)に入院となります。
治療日(水曜日)に治療室にて腰椎麻酔下で行います。経直腸的超音波検査、透視を用いて前立腺内に線源をおよそ40~100本程度留置いたします。治療に要する時間は、麻酔、準備を含めて2時間程度になります。治療後は、翌日の朝までベッド上で安静にして頂きます。
治療翌日(木曜日)にCT検査を行い、線源の確認を行った後で尿道カテーテルを抜去します。問題なければ治療2日後(金曜日)に退院となります。

治療の合併症について

✔急性期の合併症(治療後1年以内)

頻度の高い主な合併症として排尿障害(頻尿、尿意切迫感、排尿困難感など)があります。一時的な尿閉が起こることもありますが、カテーテル留置が必要になることは5%程度とされています。治療後に数週間持続することがありますが、自然に軽快することがほとんどです。当科では、カテーテル留置を要するような有害事象発生も0.3%と非常に少ないことも特徴です。
参考文献:Nakiri.M et al 2022 Journal of Contemporary Brachytherapy

✔晩期合併症(治療後1年以降)

治療後1年以上経過して出現することがあり、直腸出血や潰瘍が挙げられますが、処置が必要になるものはまれです。尿失禁や男性機能に関しても他治療に比べて有意に少ないと報告されています。

*当科では、2019年8月に全国より先駆けて、前立腺と直腸の間にハイドロゲルを挿入するSpace OAR挿入術を取り入れています。このことにより放射線治療後の直腸障害が少なくなることが期待されます。挿入されたハイドロゲルは放射線の影響が少なくなる時期に吸収され、尿として排泄されます(約6ヶ月間で消失)。

放射線の影響について

線源から放出される放射線は術後約2ヶ月で半減し、1年後にはほぼ0になります。
線源からの放射線は、ほとんどが前立腺内で吸収され、体外へ放出されるものはごく微量です。そのため、周囲の方が受ける影響は、非常に低いものです。周囲の方への影響の程度は、例えばこの治療を受けた方とご家族が1m離れて1回1時間の食事を1日3回1年間毎日繰り返した場合、胸部X線写真を1枚撮影する場合に受ける放射線の影響と同程度です。また、線源はチタン製で安全性が高く、空港などの金属探知機には反応しません。MRI検査も可能です。

さいごに

現在、当治療については、県内外より多くの御紹介を頂いているため、入院までお待ち頂く場合もありますが、可能な限り早急に対応できるよう努めていきます。また、入院待機期間の長期化が想定される場合には、患者さんのご希望に応じて病状進行抑制を目的とした内分泌療法を検討させて頂きます。

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